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健康診断の前に絶食は必要か?

23年05月30日

 5月に入り、いよいよ本格的な予防の季節になりました。ワクチンや寄生虫予防に加え、年に1回の健康診断として血液検査を受けられる方も多いと思います。

そこでよく見かける異常は中性脂肪(トリアシルグリセロール、TAG)の高値です。中性脂肪とは、トリグリセリド(TG)またはトリアシルグリセロール(TAG)と呼ばれる物質で血液中ではリポ蛋白の形態で存在します()。血中TAG濃度が高かった場合、最後の食事から何時間経っていたかが焦点となります。食事による一過性の血中TAG濃度の上昇は高脂血症とは呼びません。食後十分な時間が経過しているにも関わらず血中TAG濃度が高値を示す場合は、脂質代謝に何らかの障害があることが疑われます。 実際、食事を摂ることはどのくらい血液検査に影響を及ぼすのでしょうか。100頭の健常犬を使った研究結果が発表されました(米、Journal of Veterinary International Medicine, 2023, 34月号)。この研究によると、絶食群と比較して血中TAG濃度が食後で測定機器の許容誤差を超えた(つまり有意に濃度が上昇した)の割合は92%だったそうです。また、 絶食時の血中TAG濃度は正常値を示したにもかかわらず、食後に異常値を示した犬の割合は34%であったそうです。すなわち、ほとんどの犬では食後に血中TAG濃度を測定することによって、絶食時と比較して有意に濃度が上昇しますが、正常値を超えることは少ないといえます。逆に言えば、食後であれ食前であれ、血中TAG濃度の高値が見られた場合、異常がある可能性が高いということになります。

高脂血症にはいくつかの原因が考えられます。先天性の高脂血症を呈する疾患には、ミニチュアシュナウザーの家族性高脂血症や猫のリポ蛋白リパーゼ欠損症が知られています。これらの疾患は神経症状や膵炎を起こし得ます。ただし先天性の高脂血症は他の様々な犬種でも見られます。後天性の高脂血症の原因には肥満、ある種の薬剤投与によるもの、糖尿病、甲状腺機能低下症、クッシング症候群、糸球体腎炎、閉塞性肝胆道系疾患などが挙げられます。治療対象となる明確な基準は定められてはいないものの、食後4時間以上経過していて血中TG濃度が500 mg/dLを超える場合は治療介入すべきと考えられます。高脂血症は膵炎、神経症状や視力障害を起こし、犬では動脈硬化症のリスクを高めると言われています。高脂血症の治療は基礎疾患のコントロールはもちろんのこと、低脂肪食への食事変更が主軸になります。食事療法だけでは効果が薄い場合はサプリメントの併用や最終的には薬剤による治療も考慮します。

                         スクリーンショット 2023-06-01 200540.png R.S.

新しい猫の変形性関節症の治療薬が出ました!

23年05月22日

元気な猫ちゃんがお気に入りのおもちゃに反応しなくなったり、足を引きずって歩くようになっていませんか?それは変形性関節症のサインかもしれません。

変形性関節症は猫に非常に多く認められる疾患で、12歳以上の高齢猫全体の61%~93%がX線検査で変形性関節症を有していることが報告されています。人間も年をとってくると膝や腰に痛みが出るのと同じように猫ちゃんでも高齢になると関節に炎症を引き起こす可能性があります。特に肘、手首、膝が一般的です。

ただ、猫ちゃんはかなり我慢強いので、基本的には症状を隠してしまいます。

変形性関節症の症状としては、歩く、登る、トイレに行くなどの動作が困難になります。

具体的には、遊ぶことが減り、ジャンプができなくなる、階段を登らない、トイレ以外に排泄するようになる、よく昼寝をするようになったり、毛づくろいが出来ず被毛の状態が悪くなったり、ひどい時には足を引きずって歩くなどになります。

もちろん、これらは関節炎だけで起こることではないですが、単なる老化と勘違いして様子を見るのではなく、速やかに獣医師に相談することが重要です。

このような生活の質を落としてしまう様なやっかいな変形性関節症ですが、今まではNSAIDsと呼ばれる痛み止めが一般的でした。ですが、NSAIDsは腎臓に負担がかかったり、毎日の投薬が難しかったりと治療したいけどなかなか治療に踏み出せないことも多くありました。

最近まで猫の関節炎の治療に苦慮していましたが、2023年にソレンシアという注射薬が加わりました。

ソレンシアはNSAIDsと異なる機序によって、猫の関節の痛みを軽減するため副作用が少なく、初期の腎臓病の猫などにも安全に使用できることが報告されています。月1回の注射で済むので、毎日の投薬の負担がありません。

ソレンシアを猫ちゃんに毎月投与した場合、約77%の飼い主様が痛みの兆候の改善を実感したという3カ月の調査結果も報告されています。ソレンシアにより変形性関節症が完治するわけでは決してありませんが、痛みの管理や生活の質を大きく改善することが可能です。

ソレンシアはとても安全な薬ですが、有効成分であるフルネマトマブに対してアレルギーなどの副反応(ほとんどは皮膚のかゆみや脱毛)を示してしまう場合には使用できません。また1歳未満または2.5kg未満の猫に使用することはできません。

他にも、妊娠中、繁殖中、授乳中の猫にも使用できません。

またソレンシアの費用は1回当たりの相場が10000円~15000円と高額にはなってきます。決して安い薬ではありませんが、長期的に作用する薬であることや効果の高さ、安全性の高さを考えると、決して高い薬ではないと思われます。

愛猫の動きが悪く、遊ばなくなったり、階段に登れないなどどこか痛そうな場合には、高齢だからとあきらめるのではなく、

一度ソレンシアの月1回注射での治療を検討されることをオススメします。気になることがあれば獣医師に相談し、猫ちゃんの生活の質を上げて健やかに過ごさせてあげましょう。

Y.N.

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発情周期の異常

23年05月13日

初回の発情がなかなか来ない、発情が前回からだいぶあいているといった発情周期の異常の相談を受けることがございます。大型犬では2歳頃でようやく初めての発情が来るケースもございますので2~3歳以上になるまでは異常を断言できないと言えます。また無徴候性の発情もあり、気づいていないだけかもしれません。この場合はオス犬の反応が一番有用だったりします。そのほか原因としては甲状腺機能の低下、グルココルチコイドの投与などがあげられます。グルココルチコイドが発情を抑制する特異的な用量は知られていません。通常投与量が最小限である、中止されていれば発情は改善し得ます。グルココルチコイドは下垂体のACTHの分泌に対して負のフィードバック作用を示しますが、FSH、LHといった発情にかかわるホルモンにも同様の作用を示します。発情周期の乱れが3歳以上で見られた場合は甲状腺ホルモンの測定やACTH刺激試験で反応が鈍くなっていないか検査することを検討します。 K.Y

失敗しないシャンプーケア

23年05月05日

日に日に暑さも増し、"皮膚病"を抱えたワンちゃんの来院が増えたように感じます。今回は犬のスキンケアに重要なシャンプー選びについてお話ししたいと思います。

スキンケアには皮膚・被毛の汚れを落とす「洗浄」、皮膚の水分保持力を高める「保湿」、様々な刺激から皮膚を守る「保護」などさまざま目的があります。シャンプーは皮膚・被毛の汚れや皮脂を落とす方法として汎用されており、皮膚の健康を保つため、皮膚病に対する治療のために重要な方法です。しかし間違ったシャンプーは皮膚バリア機能に障害を与えるリスクがあることを理解しておく必要があります。多種多様な犬種の皮膚特性や皮膚の状態に合わせたシャンプー剤を選ぶことが重要です。

シャンプー剤は、界面活性剤、保湿剤や薬用成分などの有効成分がそれぞれの製品により配合されています。これら成分の中でシャンプーの特性を決めるのは、主成分である「界面活性剤」であり、主に以下の3つの系統に分類されます。

1. 高級アルコール系→洗浄力は強いが、刺激性も強い

2. 石鹸系→洗浄力、刺激性ともに中程度

3. アミノ酸系→洗浄力は弱いが、皮膚に優しい

アトピー性皮膚炎のような皮膚バリアの低下がみられる敏感肌をシャンプーする場合には、低刺激性のアミノ酸系を選び、痒みの酷い時期は週1回以上のシャンプーが推奨されています。一方、脂漏症(しろうしょう)のワンちゃんでは、皮脂が過剰に分泌されベタベタの皮膚となっているため、皮脂やフケを除去するために洗浄力の高い高級アルコール系の使用が推奨されます。シャンプーの頻度は脂漏の程度にもよりますが週1〜2回程度からはじめます。

以上の例のように皮膚病の治療を目的としたシャンプー療法を適切に行うと、治療期間の短縮や使うお薬の種類・量を少なくできる可能性もあります。愛犬のシャンプー選びに疑問がありましたら、獣医師まで気軽にご相談いただければと思います。

また近年の研究では、保湿成分を配合しないシャンプーで洗浄した後に経表皮水分蒸散量(=皮膚から逃げていく水分量)は上昇し、洗浄後3日経過しても洗浄前の状態に戻っていなかったという報告があります。このことからセラミドやヒアルロン酸などの保湿剤を配合したシャンプー剤を選ぶ、もしくはシャンプー後に保湿処置をセットで行うことをオススメします。シャンプーを正しく行い、暑い夏を乗り切りましょう。

D.N.