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猫のジアルジア症

11年02月22日

Giardia duodenalis(別名G.lamblia、G.intestinalis)は猫の消化管寄生虫として一般的な原虫です。
日本国内の猫の感染率は、調査の母集団や地域、検査方法によっても異なりますが、おおむね1~10%と推測されます。感染個体から便とともに排出された病原体(シスト)の経口、あるいは接触感染により伝播し、感染した猫のほとんどは症状を示すことはありませんが、急性小腸性下痢やそれに伴う体重減少が認められることがあります。

診断方法には、直接塗抹法や遠心分離法による糞便検査での病原体の検出がありますが、検出されないからといってジアルジア症を否定することはできず、また検出されたからといって必ずしも顕性寄生(つまり確認されたシストが症状の直接的な原因となっている)と確定することができません。近年では、ELISA検査キットなど新しい検査方法が利用されつつあり、臨床兆候やその他の所見から総合的に解釈する必要があります。

治療方法はいくつか報告されていますが、一貫して効果を発揮する治療法は確立されておらず、また無症状の猫に治療が必要かどうかはいまだ議論されています。症状が認められる猫には、フェンベンダゾールとメトロニダゾールを併用した薬物療法が安全かつ有効な選択肢として推奨されています。また病原体(シスト)を被毛から除去して再感染を防ぐため、猫用トイレの交換や猫を入浴させるなど飼育環境のコントロールも重要となります。

血液凝固機能検査

11年02月15日

 出血を止めるため、生体はさまざまな機構を持っています。出血が起こると、まず血小板がvon Willebrand因子を介して血管内皮細胞と結合し、そこに血小板同士が結合することで血小板凝集塊を形成します(一次止血)。続いてⅠ~ⅩⅢの12個の血液凝固因子(Ⅵはない)が連鎖的に働き、凝固蛋白質であるフィブリノゲンを活性化してフィブリンを作り、さらに止血を強固なものにします(二次止血)。二次止血は内因系と外因系の2つの機構があり、最終的に共通経路に入ってフィブリノゲンを活性化させます。
 この二次止血機構はPT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、フィブリノゲンを検査することでスクリーニング検査が可能です。PTは外因系と共通経路、APTTは内因系と共通経路を担当する凝固因子の欠乏を検査します。二次止血機構に異常があると手術中の出血が多量になることがあり手術のリスクが高くなります。そのため特に大量出血が予想される手術や、腫瘍性疾患などでは凝固異常が認められる場合があるために術前の検査が勧められます。
 また凝固機能検査はDIC(播種性血管内凝固症候群)の検査にも有用です。DICとはなんらかの原因で全身の小血管内に微小血栓が形成され多臓器不全を呈し、死へと直結する状態です。悪性腫瘍、免疫介在性溶血性貧血、感染症、肝不全、急性膵炎など、さまざまな病気がDICの基礎疾患として挙げられます。
 術前検査にしてもDICの検査にしても迅速な測定が求められます。当院では凝固機能検査を院内で行うことが可能です。

短頭種気道症候群

11年02月08日

短頭種気道症候群(または上部気道閉塞症候群)とは短頭種の犬(ブルドッグ、ボストンテリア、パグなど)や顔の短い猫(ヒマラヤンなど)でみられる下記の解剖学的異常のうち一つまたは複数が組み合わさって存在する病気です。

・外鼻孔の狭窄
・軟口蓋の過伸長
・喉頭小嚢の外転
・喉頭虚脱
・気管の低形成(ブルドッグ)

これらの異常によって上部気道で空気の流れを損ない、騒々しい呼吸音、喘鳴音、努力性呼吸、チアノーゼ、失神などの症状を引き起こします。これらの症状は運動、興奮、高い外気温によって悪化します。また、吸気時の努力性呼吸は喉頭および咽頭の粘膜において二次的な炎症や浮腫を引き起こし、喉頭小嚢の外転を増大させ、声門をさらに狭窄し、症状を悪化させる悪循環に陥ります。結果として致命的な上部気道の閉塞を引き起こすこともあります。

治療は症状を悪化させる要因(運動、興奮、高い気温など)を最小限にし、上部気道の空気の流れを良くすることを計画することが大切です。外科的には狭窄した外鼻孔を拡張する、過伸長した軟口蓋や喉頭小嚢を切除するなどの治療があります。内科的には短時間作用型のプレドニゾロンの使用で二次的な咽頭、喉頭の炎症や浮腫を軽減し、空気の流れをよくすることが期待できます。しかし根本的な治療には外科的な治療が必要となります。

犬の前庭疾患

11年02月01日

眼および頭部の位置を正常に保ち、体のバランスを正常に維持するための神経路を総称して前庭系と呼び、末梢神経系と中枢神経系に分けられます。犬の前庭疾患は、末梢神経障害もしくは中枢神経障害を引き起こす他の疾患によって二次的に起こります。
前庭系が障害されると、斜頚、眼振、斜視、旋回運動、運動失調、平衡障害(ふらつき)などの症状が見られます。嘔吐や食欲不振を併発する場合もあります。
末梢神経障害による前庭疾患の原因としては、特発性前庭疾障害、中内耳炎、頭部外傷、耳道の腫瘍、中耳ポリープ、甲状腺機能低下症、アミノグリコシド中毒などが挙げられます。中枢神経障害による前庭疾患の原因としては、髄膜脳炎、頭部外傷、脳腫瘍、脳血管障害、メトロニダゾール中毒、寄生虫の迷入などが挙げられます。
前庭疾患による症状は他の脳疾患と比べて特徴的であるため、前庭系の異常を疑うことは比較的容易ですが、原疾患を特定することは困難である場合が多いです。血液検査、神経学的検査、耳鏡検査、頭部のX線検査、CTあるいはMRI検査、脳脊髄液検査などを行うことによって原疾患の特定を行います。
治療は原疾患に即して行います。原疾患が特定できない場合は輸液などによる支持療法が行われます。