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最近のエントリー

フォン・ヴィレブランド病

15年10月25日

この病気はフォン・ヴィレブランド因子と呼ばれる血液凝固因子の異常や減少によって起きる血液凝固不全です。この因子は血管の内皮で産生される蛋白で血小板を創傷部に接着させる働きがあり、創傷部で働く凝固因子であるため多くの場合止血系のスクリーニング検査で検出できません。遺伝病であり、ドーベルマン・ピンシャー、ジャーマン・シェパード、プードル、ゴールデン・レトリバー、シェットランド・シープドッグに多いといわれています。症状は出血時間の延長ですが、自発性の出血をするケースは多くなく、歯の生え変わりや発情出血がなかなか止まらないことでわかる場合があります。手術中も出血が止まりにくくなり、局所止血剤や輸血の準備、酢酸デスモプレッシンの前投与などの対策をします。当院では術前に血液凝固機能検査の説明もさせていただいていますが、前で書いたとおり検出できない可能性があります。今までの生活で過剰に出血したような記憶がおありでしたら教えていただけるとより安全な獣医療が提供できるかと思います。K.Y

バベシア症

15年10月18日

バベシア症とはバベシア原虫(Babesia gibsoni , Babesia canis)が赤血球に寄生することにより起こる疾患である。主な感染経路はマダニが吸血する際にマダニの唾液とともに体内に侵入することにより感染が成立します。また、感染血液の輸血によっても感染が起こります。

主な症状としては、甚急性の場合、食欲不振、衰弱した後にショックまたは昏睡状態に陥り死亡する。急性症の場合、溶血性貧血、発熱、食欲不振、衰弱がみられる。また、黄疸、点状出血および肝臓や脾臓の主題がみられることもある。急性の貧血の場合、播種性血管内凝固(DIC)や代謝性アシドーシス、腎疾患を示すこともある。慢性感染では体重減少、食欲不振がみられる。

バベシア感染の診断方法はギムザ染色した血液塗抹上の赤血球中に虫体を証明することにより行われます。しかし、重度の溶血性貧血がある場合においても末梢血への原虫出現が低く、診断が困難な場合があります。PCR法は感度の高い検出法であり、鑑別診断にも有用です。

治療法としてはジミナゼンが第1選択薬として用いられるが神経症状、肝障害、腎障害、疼痛などの副作用があるため、使用には注意を要します。また、治療後も体内から一掃はされず、再発がみられることがあるため、予防が非常に重要だと考えられます。

予防はマダニの寄生を避けることであり、飼い主様には忘れずにノミ・ダニ駆除薬を使用していただくことをお勧めしております。

D.T

炎症性鼻咽頭ポリープ

15年10月11日

 炎症性鼻咽頭ポリープは、中耳、耳管、鼻咽頭の粘膜から生じる猫で最も一般的な外耳道の主流です。ポリープは一般的に単一の主流として存在し、場所や大きさにより嚥下障害や上部呼吸器疾患、あるいは中耳や内耳疾患に起因するホルネル症候群や前庭性徴候が見られる場合がります。慢性中耳炎の症例では中耳から発生したポリープが鼓膜を介して外耳まで達することもあります。

炎症性鼻咽頭ポリープの原因は詳しく解明はされていませんが、慢性炎症、上行性咽頭感染症、先天性疾患や猫のカリシウイルス感染症などとの関連が考えられています。

診断は耳鏡や航空検査で堅い肉質の腫瘤が確認されることにより行われますが、中耳の関連性の見極めにはCT検査等が有用になります。

 治療としては単純に切除する場合と腹側鼓室胞骨切り術による方法がありますが、中耳が関与していない場合は前者で十分といわれていますが、関与する場合には術後の合併症の発生率が比較的高くなってしいます。術後の治療に関しては方法に関係なく抗炎症用量のプレドニゾロン投与により再発が軽減されるという報告があります。

猫の多発性嚢胞腎

15年10月04日

猫の多発性嚢胞腎はペルシャの家系で多発する嚢胞性腎疾患で、これまでの研究でペルシャと交雑のある長毛種の猫や、ペルシャ以外の長毛種で遺伝的な背景が証明されています。近年では長毛種だけでなく、アメリカンショートヘアにもみられることやその他の短毛雑種でも発症の報告がみられます。

多発性嚢胞腎は、ヒトでも猫でも腎尿細管繊毛に存在するpolycystin1PC1)をコードする遺伝子PKD1の遺伝子変異が原因で引き起こされる疾患です。本症における嚢胞形成メカニズムについてはいまだ解明されていない部分もありますが、PKD遺伝子がコードするポリシスチン蛋白の発現が正常腎より嚢胞腎ではきわめて高いことが嚢胞細胞の増殖と嚢胞内への液体分泌亢進の原因の主要な部分を占めているのではないかと考えられています。嚢胞形成の進行速度は個体によってさまざまですが、比較的ゆっくり進行し嚢胞の数が少ないうちは臨床症状を示しません。嚢胞は大きくなると周囲の腎実質を圧迫し、次第にネフロン数の減少を招き、慢性腎臓病(CKD)の病態を呈してゆきます。

臨床的には、両側性の腎嚢胞形成による腎不全として認められますが、前述のように無症状で長期間経過し、他疾患の画像診断の際に偶発的に発見されたり、中年以降の腎不全で発見されたりすることが多くあります。画像診断が極めて有効で、特に腹部超音波検査で嚢胞の個数や大きさを確認できます。本症では嚢胞は腎臓に限局していることが一般的ですが、少ないながらも肝臓や膵臓に認められることもあり、その場合CT検査が有用です。

嚢胞内の液体は感染や出血がなければ透明ですが、嚢胞内の感染の有無が生存日数に関わることが示唆されているため、尿や嚢胞液の細菌感染を定期的にチェックすることは重要となります。

本症を発症してしまった猫に対しては、嚢胞形成を止める根本的な治療法はなく、対症療法が中心となります。長い経過をたどることが多く、慢性腎臓病の管理に準じて治療を行うことが一般的です。次第に大きくなる嚢胞形成によって腎実質を圧迫することが腎臓の線維化につながるため、定期的な穿刺による嚢胞液抜去が行われることもありますが、嚢胞感染の発生を起こさないように十分な注意が必要となります。

繁殖に供する猫の遺伝子検査の普及と、腎臓に嚢胞を持つ未発症の猫を繁殖に供さないことが本症の広がりを防ぐ手段となります。PKD遺伝子の変異を検出することで確定診断が可能であり、未発症の仔猫や繁殖に供する猫の診断に用いられます。

H.B.