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ネコの甲状腺機能亢進症

14年09月28日

 米国および日本での疫学調査において、7歳以上のネコの10%前後が甲状腺機能亢進症であるとする報告があるように、甲状腺機能亢進症はネコの内分泌疾患の中で高率に認められる疾患です。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモン(T4およびT3)の過剰生産・分泌によって起こる全身性疾患です。甲状腺の病理学的変化の多くは良性の腺腫性過形成で、悪性腫瘍は2%未満とされています。甲状腺が腺腫性過形成に発展する真の原因については現在のところ明確な答えは出ていませんが、免疫学的、感染性、代謝性、環境または遺伝性因子などが相互に関与していると考えられています。大規模疫学調査の結果では、市販の缶詰フード中のヨードやイソフラボン、プルトップ缶の内面に塗布されている物質、猫砂などの様々な物質が甲状腺腫を引き起こす物質として示唆されていますが、最近では住宅用難燃剤(カーペットやカーテン用)のPBDEs(Polybrominated Diphenyl Ethers)が、かなり有力な発症因子の1つであると注目されています。
 症状は、一般的なものとしては「高齢猫の食欲の低下を伴わない体重減少」です。それに付随して多食、多飲多尿および嘔吐、下痢などの消化器症状、および被毛の変化などの症状が出ます。攻撃的な性格になることも時々見られたり、体重減少に加えて、無気力、虚弱、食欲不振が主な症状の場合もあります。このように、甲状腺機能亢進症は複合的全身性疾患であり、甲状腺中毒性心筋障害、腎不全、全身性高血圧症、消化管障害などを併発しやすく、それに伴い臨床症状が多種多様になることが多いです。
 診断は、多くは血清総T4濃度の測定で確定が可能です。軽度の甲状腺機能亢進症や、重度の非甲状腺疾患(腫瘍、全身感染症、臓器不全など)を併発している甲状腺機能亢進症では、血清遊離T4濃度も測定することによってより正確な診断が可能となります。
 治療は、大別して経口抗甲状腺薬による内科的維持療法、甲状腺摘出術、放射性ヨード療法の3つに分けられます。甲状腺ホルモン合成に最も重要な元素であるヨードを最適に制限することで、甲状腺ホルモンの過剰生産をコントロールするという概念から、ヨードを制限した処方食が発売されていますが、まだ実証例の報告が少なく、また長期的な予後がまだわからないですが、今後の報告次第では第4の選択肢として期待できるかもしれません。また、放射性ヨード療法は、日本では治療を行える施設がまだ1つも認可されていないため、今のところ実質甲状腺摘出術か抗甲状腺薬による内科治療の二択となります。甲状腺摘出術は永久的治療(根治)を目的として実施されますが、経口抗甲状腺薬は効果を維持するために毎日投薬する必要があります。抗甲状腺薬は、嘔吐、食欲不振、無気力などの副作用が認められたり、抗腫瘍効果があるわけではないため、長期的な予後を期待するという意味でも当院では甲状腺摘出術も積極的に行っております。

環軸不安定症

14年09月21日

環軸不安定症は先天性あるいは発育性障害によって最初の2頸椎間の関節の不安定化により脊髄と神経根の圧迫を生じるものです。軸椎の歯突起の骨折、欠損、発育不全などの異常や環椎‐軸椎を支持している靭帯の異常形成、弛緩、断裂によって生じます。
若齢(ほとんどが一歳未満)の小型犬に多く、間欠的な痛みや、下を向けない、四肢のふらつき・協調不全~ひどい場合は不全麻痺を引き起こします。下を向くと痛みが増すため下を向けずに固まっている様子がよく見られます。
後天性に生じる環軸不安定症は外傷によるもので、歯突起の骨折や靭帯の断裂によっておこります。先天的に環軸不安定症があったが明らかな臨床徴候を示さなかった犬が外傷を機に顕著な脊髄圧迫や神経根圧迫が生じることもあります。
診断は明らかなものは無麻酔でのレントゲン検査で可能ですが,明らかでなかったり動物が非常に痛がる場合は麻酔下で行います。小型犬で環椎‐軸椎間の距離が4~5mm以上ある場合に環軸不安定症と診断するのが通例です。
内科的治療には頸部ギプスにより頸部と頭部を伸長状態に維持すること、短期間のコルチコステロイド投与を行います。内科療法で症状の軽減がない場合や臨床徴候の慢性病歴(30日以上)がある場合は外科的療法が必要となります。脱臼部位を整復し、圧迫病変の減圧、環軸関節の固定を行います。術後は固定が不適切な場合脊髄障害が出たり、喉頭の圧迫により嚥下困難が生じる可能性があります。
小型犬は抱っこする機会が多いですが、骨も非常に細いので場合によってはヒトの膝ぐらいからの高さからの落下でも骨折することがあります。十分注意してあげてください。M.M.

白内障

14年09月14日

 白内障は眼球のレンズ(水晶体)の変性により白く濁ってしまうことで、人でも発生が多い事から、眼が白くなったと来院される患者さんは多くおられます。ただ高齢犬の場合、真の白内障ではなく、核硬化症という視覚には障害を起こさない加齢性変化もあるので鑑別が必要になります。
 白内障は遺伝性、加齢性、外傷性など、さまざまな原因があります。他の眼科疾患、例えば角膜穿孔、ぶどう膜炎、慢性緑内障などから二次的に起こる事もあり、また糖尿病などの全身疾患からの白内障もあるため、眼だけでなく全身の検査が必要な場合もあります。犬ではアメリカンコッカースパニエル、トイプードル、柴犬、シュナウザー、ボストンテリアなどが多く、犬種により進行状況が異なります。猫ではまれです。
 白内障になるとレンズが膨らみ、水晶体タンパクが漏れだすと激烈な炎症を引き起こします。これを水晶体誘発性ぶどう膜炎といい、白内障患者では常に気をつけなければなりません。
白内障手術は人では一般的ですが、犬では人よりも難易度の高い専門性の要求される手術となります。手術は超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入で行います。術後も緑内障や網膜剥離など経過をみていかなければなりません。
 眼は飼い主さんが異常に気づきやすいのですが、白内障は症状が一気に進行する可能性があり注意を要します。気になる事がございましたらお尋ねください。
T.S.