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前立腺膿瘍

16年09月25日

犬の前立腺に認められる疾患には、前立腺肥大症(過形成)、前立腺炎、前立腺嚢胞、前立腺膿瘍、前立腺腫瘍などがあります。前立腺肥大症は、中~高齢の未去勢雄の80100%に認められる疾患ですが、それ以外の疾患の発生は比較的まれであるとされています。しかし、未去勢犬において、前立腺肥大症と前立腺炎、前立腺嚢胞、または前立腺膿瘍が合併した際は、前立腺肥大症は各疾患の増悪因子であることが指摘されており、早期に去勢手術を行えば前立腺炎、前立腺嚢胞、前立腺膿瘍の発症や進行を予防できる可能性があります。

前立腺膿瘍は、上記の非腫瘍性前立腺疾患の中では、比較的重篤化しやすい疾患です。一般的に前立腺膿瘍は、化膿性前立腺炎からの続発、もしくは前立腺嚢胞への感染によって発生します。症状としては、血尿、混濁尿、排尿障害、排尿痛、排便障害、下腹部腹痛、後肢浮腫・麻痺などが認められますが、無症状であることもあります。診断には超音波検査が最も有用で、超音波ガイド下にて前立腺に貯留している液を吸引し、その液が膿液であることが確認できれば確定診断できます。治療は、排膿と適切な抗菌薬による治療に加えて、未去勢であれば去勢手術を行います。しかし、膿瘍を形成した前立腺は虚血により膿瘍内への抗菌薬の移行が妨げられたり、抗菌薬が前立腺液内に拡散しにくいなどの理由から、内科的治療のみで完治が困難であるケースも少なくありません。よって、超音波検査で膿瘍が複数存在したり、膿瘍のサイズが大きい場合には前立腺に対する外科手術を考慮します。

前立腺膿瘍は、破裂したり、膿瘍内の細菌により敗血症を引き起こしたりすることで、重篤化する場合があります。前述の通り、前立腺膿瘍などの非腫瘍性前立腺疾患の多くは、去勢手術を事前に行っておけば、予防できる可能性が高いです。交配することを考えていない場合は、早期の去勢手術をお勧めいたします。

小さな白い犬症候群

16年09月18日

振戦とは体の一部が規則的に振動する動きです。頭部の企図振戦は通常、小脳疾患に関連しており、動物が動作を起こそうとするような場合、例えば食べる、飲む、嗅ぐといった目的のはっきりした動作をしようとして頭部が目標に近づいたときに著しく悪くなります。動作振戦は動作中はずっと起こり、休んでいるときは起こりません。

このような症状が急性に起こった場合、まず毒物を原因と考えます。推理小説などでも出てくる植物毒であるストリキニーネ(マチンの種子などに含まれる)、メトアルデヒド、塩化炭化水素、有機リン酸類などです。ほかに、低血糖や低カルシウム血症、高アンモニウム血症などの代謝性障害でも起こります。

代謝性または毒物が原因でない全身的に発生する頭部と体幹の振戦は5か月齢~3歳の若いの小型犬種で急性に発症することがあります。当初はマルチーズ、ウエストハイランド、ホワイト・テリアなどの白い犬でのみ確認されていたため「小さな白い犬症候群」と呼ばれていましたが、現在ではどの毛色の犬でも起こることが分かっています。

「ホワイト・ドッグ・シェイカー・シンドローム」、「特発性ステロイド反応性振戦症候群」や「特発性小脳炎」とも呼ばれます。

症状は、細かい振戦が13日の間に進行し、興奮・緊張時に悪化し睡眠時には減弱します。血液検査では明らかな異常はなく、通常は神経反応も正常です。脳脊髄液の検査では軽度のリンパ球増加及び蛋白濃度上昇が見られることがあります。組織学的検査では軽度な非化膿性脳炎が認められます。治療しなくても13か月で症状が軽快する犬もいますが、生涯持続する場合もあります。

早期治療にはジアゼパムとコルチコステロイドを投与し、通常45日で症状は改善します。投薬は45か月かけて減らしていき、症状が出ない量にまで減らしていきます。少数の犬では数か月~数年後に再発し、生涯にわたり低用量での投薬治療が必要な場合もあります。

先日、5か月齢のマルチーズさんが止まらない震えを主訴に来院されました。血液検査では異常はなく、家で寝ているときは震えはマシだが病院に来ると震えが止まらない、人が近づくと激しく震えるというまさに典型的な症状でした。あまり多い病気ではありませんが、若い犬に起こる病気なのでこういう病気もあると、頭の片隅に置いておいてください。

M.M.

新しい分子標的薬・パラディア

16年09月11日

 国内初、犬用の分子標的薬としてパラディアという製品が発売されました。有効成分はトセラニブといいます。分子標的薬とはターゲットとなる腫瘍細胞を狙い撃ちして抑制効果を示すため、一般的な抗癌剤よりも副作用が出る可能性が低いものです。

 以前にもイマチニブという分子標的薬をワンちゃん猫ちゃん用いていましたが、このトセラニブはイマチニブに比べて標的になる分子が多く、マルチキナーゼ阻害薬(いくつものキナーゼを阻害するという意味)と呼ばれています。イマチニブ以上に抑制効果がみられ、また応用できる腫瘍も多いのではないかと言われており、現在は多くの腫瘍に対して使用されるようになってきています。代表的なものは肥満細胞腫、肛門嚢腺癌、甲状腺癌、鼻腔癌、転移性骨肉腫、頭頚部癌などが報告されています。その作用は特定の分子の働きを抑制することによる直接的な腫瘍増殖抑制効果と、腫瘍が増大するのに必要な血管の新生を抑制することによる間接的な抑制効果とがあり、様々な腫瘍に対して効果を示すのは後者の働きが大きいのではないかと言われています。また他の治療との併用によっても相乗効果があるのではないかと考えられています。

 しかしイマチニブよりは消化器障害(嘔吐や食欲不振)などが出やすく、投薬量の調節が必要になる事もあります。また高価であるということ、製品が不足しておりなかなか入手が難しいという面もありますが、最近では使用報告例も多くなってきており非常に期待できる薬と思っております。

近年はヒトと同様、動物にも腫瘍性疾患が多くなってきております。そのような病気を患ってしまった子たちの力に少しでもなれるよう、新しい薬の情報も仕入れていきたいと思っています。

T.S.