各種シンポジウム、セミナー、学会参加情報、最新の獣医療などを掲載。
今回は岡山理科大学 獣医学部 外科助教 糸井崇将先生をお招きし、神経疾患の診断と治療という題目でご講演頂きました。
神経疾患を疑う症状として、ふらつき・発作・旋回・斜頸などがあります。診療において神経疾患を疑う場合には神経学的検査、レントゲン検査、CT検査、MRI検査などを行います。今回の講義では、神経学的検査の方法や評価のポイントを写真・動画を交えて丁寧に解説して頂き、神経学的検査の手技を再確認できました。神経学的検査は特別な道具や設備を必要とせず、どこでも実施できる基本的な検査ですが、正しく評価することで病変の場所や重症度を推定できるため、この検査の重要性を改めて感じることができました。
講義後半では、神経疾患の代表格でもある椎間板ヘルニアを中心に最新の情報も踏まえながら画像診断のポイントをご講義いただきました。神経疾患の診断のポイントを包括的にまとめて頂き、内容は盛りだくさんでしたが非常に分かりやすく、明日からの日々の診療に役立てるものばかりでした。
講義の後は、診断に苦慮した神経症状を呈する症例を持ち寄り、症例検討会を行いました。参加されている先生方のさまざまな意見を聞くことができ、大変興味深かったです。私も活発な討論に参加できるよう日々精進していきます。
D.N
「ソレンシア」について
橋口順子先生(ゾエティス・ジャパン株式会社)
今月の志学会月例会は、今年の2月に新発売されたソレンシアという注射薬についてのセミナーでした。すでに欧米などの世界では使用されているものですが、遂に日本にもやってきたという感じです。
人では加齢とともに関節痛に悩まされますが、それは猫においても同様で、加齢、肥満、遺伝などにより関節に負担がかかることで変形性関節症に陥ります。12歳以上の高齢猫の関節疾患の罹患率は90%ととても高いにもかかわらず、猫はその症状が明白でなく、飼い主であるご家族でご自身の猫の関節炎を認識されている方はごくわずかといわれています。ジャンプをしなくなる、活動性の低下、グルーミングの減少、怒りっぽくなるなど日常動作に影響を及ぼしているのですが、それが単に加齢に伴うものと判断されているようです。
ソレンシアはモノクローナル抗体による、関節症に伴う疼痛を緩和する治療薬です。いわゆるNSAIDsなどの痛み止めと異なり腎臓、胃腸などへの影響も最小限で、かつ1回の注射で1か月効果が持続します。猫は投薬が大変な子も多いため、この投与方法はご家族にとっては非常に利便性の高いものです。
ソレンシアによる治療も大事ですが、まず猫の関節疾患をご家族に認知していただくことが重要かと思います。関節の痛みを発見するためのチェックシートなどもございますので、高齢猫を飼われているご家族は参考にされたら良いかもしれません。
講義は動画も交えてとても分かりやすいものでした。今後の診察に活かしてまいります。
T.S.
年に2回開催される日本獣医がん学会の第27回学会は、久しぶりの大阪会場での会場開催となりました。徐々に学会開催も以前のような形態になりつつありますが、ウェブ上でも講義の内容を再び聴講できるなど、以前よりも利便性も増してハイブリッド開催の良い側面だなと感じました。
メインシンポジウムは「がん終末期のケア」でした。終末期の動物の治療はさまざまな面でのケアが求められます。動物に対しては何より大事なのは苦痛を取り除いてあげることであり、それはがん治療に並行して実施することが重要です。緩和ケアという言葉は治療不可能な状態の子に行う治療という意味ではなく、がん治療と同時に行うことで生活の質を維持してあげるためのケアであり、これは人医療でも動物医療でも同じ考えに基づいていると感じました。また同時に動物だけでなく、飼い主さんへのケアも十分に考慮せねばなりません。やはり自分のワンちゃんや猫ちゃんが危ない状態に陥ったときに抱く飼い主さんのお気持ちは察するに辛いものです。人医療において、亡くなっていく患者さんといかに対話していくのか、現場に立ち続ける医師のお話を聞けて、とても胸を打つものがありました。
T.S.