南が丘動物通信

10/23  葉月会 感染症学シリーズセミナー 感染症検査の正しい知識とアンチバイオグラム 21年10月23日

葉月会 感染症学シリーズセミナー 

東京大学農学生命科学研究科 付属動物医療センター第一内科

茂木朋貴先生

今回は感染症の検査における正しい理解とアンチバイオグラムについてでした

尿路感染、皮膚感染などで院内培養で菌が検出できた場合、薬剤感受性試験を検査会社に依頼して検出された菌種、それに対する抗生物質の感受性、耐性の評価を行います。そのうえで患者に対して使用する抗生剤を考慮します。ここで気を付けていかないといけないのは感受性試験の結果が感受性ありと判定された場合でも、犬なのか猫なのか、検出された臓器はどこか、院内の検査でそのような菌が見えていたか、実際に検出された菌はなんなのかを総合的にみた上で抗生剤を決定する必要があるということです。例えば、klebsiella pneumoniae が検出された場合には、感受性試験において"どの抗生剤も効く"という結果であっても、これらはあらかじめ染色体上にあらかじめ耐性遺伝子(Aβ-ラクタマーゼ)が乗っているため、アモキシシリンに対して自然耐性を示す場合がある為使用は避けた方が良いです。このように感受性があるからと言って安直に抗生剤をチョイスするのではなく、患者ごとの情報から理論的に抗生剤をチョイスする必要があります。

このような、抗生剤の選択においての正しい考え方に加えて、正しい感染症診療をするためにアンチバイオグラムの作成が役立ちます。アンチバイオグラムとは、抗菌薬の累計感受性率のデータで、病院においての細菌種毎の抗菌薬の感受性を調べたものと定義されます。メリットは抗菌薬を経験的に使用する際に可視化できるので信頼性も高く、無駄な抗菌薬治療を減らすことができると言った点が挙げられます。院内で菌が検出されたら、グラム染色で球菌か桿菌かを確認し、ある程度の範囲で菌種を予測しデータベースに基づいて最良の抗生剤をチョイスすることができるので、敗血症なのど緊急性を要する状態の子に対して迅速に適切な抗生剤を選んで投与することができると言ったメリットもありました。

このようにただしい認識で抗生剤を使用することは、動物たちの早期回復になるだけでなく、ご家族の皆様の負担も軽減できることにつながるのでこれからの診療の中で意識していくべき内容だと感じました。

R.I

10月15日 志学会月例会 21年10月15日

犬の肺高血圧症 病態の理解とそれに応じた治療戦略

亀島聡先生 北里大学小動物第一内科研究室講師

 今回は犬の肺高血圧症についての講義でした。以前は犬糸状虫症(フィラリア症)が原因のものが多かったですが、現在では小型犬の僧帽弁閉鎖不全症の悪化による肺高血圧症に遭遇することがあります。その症状が失神であったり腹水貯留で、ご家族にとってはショッキングなもので、その病態の理解をしていくことでご家族にも病気についてご説明がしやすくなります。

 診断方法もいくつか方法がありますが、心臓カテーテル検査が難しい獣医療ではやはり心臓エコー検査が最も重要で、三尖弁逆流速度とそのほかの所見を組合わせて行います。しかし治療においては検査所見と併せて臨床症状を呈しているかが大事で、その開始には慎重な判断が求められます。また僧帽弁閉鎖不全症の治療を強化することの必要性も再認識しました。以前から言われていた、ベラプラストナトリウムについても知見が聞けました。

T.S.

10月12日 葉月会Webセミナー 猫の獣医学シリーズ  21年10月13日

第3回 猫のリンパ腫

石田 卓夫 先生 

ねこ医学会(JSFM)会長/学術理事

日本獣医がん学会(JVSC)会長

一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)名誉会長

第3回のセミナーはねこちゃんで最もよくみる腫瘍であるリンパ腫についての講演でした。

リンパ腫は白血球の腫瘍で、その病変が現れる部位、分化の程度、クローナリティなどで細かく分類が分かれていきます。それぞれ予後もことなりますし、反応しやすい治療法も異なります。いままで同じ診断名になっていたものでも研究が進むにつれて新たに定義づけられ、名前や治療法が進歩していきます。今回の講義ではそのアップデートやその型に適した抗癌剤の選択を学びました。またリンパ腫の診断と型の判断は病理検査によって行います。院内での生検時に前もって結果が想像できるようになることで飼い主様に予備知識を伝えることができるようになると思います。今回の講義では細胞診でわかること、わからないことを体系的にまなぶことができました。多くの画像もみせていただき細胞診で注目すべき所見などを学び直すことができました。リンパ腫を発見した際に飼い主様により分かりやすいインフォームにつなげていきたいと思います。

K.Y