南が丘動物通信

慢性腎臓病で貧血に? 23年09月05日

ネコちゃんにおける代表的な病気として「慢性腎臓病」があることは知っている方も多いと思います。その腎臓病によって生じる貧血、いわゆる腎性貧血という病態があるということをご存知でしょうか?

腎臓は尿を生成し老廃物を体外に排出するだけでなく、たくさんの機能を有する臓器です。そのひとつとして、造血機能の促進があります。腎臓の間質で生成される「エリスロポエチン」というホルモンは、赤血球の前駆細胞に働きかけ赤血球の産生を促します。慢性腎臓病が進行すると、エリスロポエチンの産生が不十分となり、貧血を起こす場合があります(腎性貧血)。

腎性貧血になると、全身に十分な酸素を送れず、歯茎や目の粘膜が青白くなることもあります。また、赤血球は酸素を運んで体温を維持する働きがあるので、腎性貧血になると体温が下がって冷えやすくなります。結果として、ネコちゃんは元気がなく動かなくなり、食欲が落ちて痩せてくる可能性があります。これらの症状は慢性腎臓病の症状だと勘違いする方も多いため、当院では定期的な血液検査で腎機能をチェックするとともに、貧血が進行していないかも確認しています。

腎性貧血の治療としては鉄分の補給とともに、不足している「エリスロポエチン」のホルモン剤を使うことで貧血の進行を防ぎ、症状を和らげることができる可能性があります。これまで、犬猫用のエリスロポエチン製剤は開発されておらず、ヒト用のものを代用して治療を行っていましたが、先日『エポベット』という猫のエリスロポエチン製剤が世界初で承認されました。エポベットは2週間間隔で注射をすることが推奨されており、これまでのヒト用製剤と比較して投与間隔が長いことが特徴・メリットです。これまでの研究では、エポベットを2週間間隔で6回皮下注射することで8割以上の猫ちゃんで貧血の改善が認められたとの報告もあり、今後腎性貧血で悩む猫ちゃんの新たな治療薬として使用されることが期待されます。

D.N.

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