南が丘動物通信

腹腔鏡を用いた胃腹壁固定術 23年06月30日

 犬では胃拡張・胃捻転症候群という病気が発生します。これは食後に胃内に異常なガスが発生する事で胃が拡張し、重症化すると捻転して胃が壊死するものです。胃だけの症状に留まらず、捻転による循環不良に伴う低血圧・ショック症状を呈し、命の危険を伴う緊急疾患です。大型犬も小型犬も発生しますが、特に発生の多い大型の好発犬種においては胃捻転を予防するために、胃をお腹の内側の腹壁に固定するという手術を行うことがあります。開腹で行う方法としては、切開胃固定術、ベルトループ固定術などいくつかの方法が報告されています。

 人医療では内視鏡外科は広く普及し、さまざまな種類の手術が実施されています。近年では獣医療でも内視鏡外科の発展がめざましく、腹腔鏡を用いた手術が増えています。腹腔鏡を用いた胃腹壁固定術もそのひとつです。開腹手術では皮膚を大きく切らないと胃を十分に引っ張ることが出来ません。しかし腹腔鏡手術をおこなえば小範囲の術創で済むため、獣医領域では早くからこの手術に対して腹腔鏡が適応されてきました。

 まずカメラ(硬性内視鏡)を入れるための小さい穴を臍の下に1カ所、そして胃を引っ張ってくるための鉗子を入れるための穴を右側壁部にもう1カ所あけます。お腹にカメラを入れ、目視で胃を確認後に胃を外に出すように体壁までひっぱります。この際、胃の出口(幽門部)から少し離れた胃体部をつかむようにします。そして胃を引っ張ってきた穴を5㎝ほどに広げ、体壁の筋肉と胃を固定するように縫合していき胃を固定します。傷は開腹手術のものよりもはるかに小さくなります。

 胃拡張・胃捻転症候群は緊急的で致死的な疾病です。残念ながら胃拡張はこの手術でも予防することはできませんが、胃捻転は大型犬では特に要注意のため、予防手術についてお聞きになりたい方は診察へお越しください。

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T.S.