南が丘動物通信

僧帽弁閉鎖不全症の外科的治療 17年02月05日

 僧帽弁閉鎖不全症は、高齢の小型犬に最もよく認められる心臓疾患です。原因としては、弁膜の肥厚(粘液腫様変性)や弁を支える腱索の断裂が挙げられ、これらの弁輪装置の構造異常が血液の逆流を引き起こします。治療には内科的療法と外科的療法がありますが、現在のところ内科的療法が一般的です。しかし前述の通り、僧帽弁閉鎖不全症は弁輪装置の構造異常により引き起こされるものですので、内科的療法はあくまで病態の進行を緩やかにするための対症療法であると言わざるを得ません。一方、外科的療法は弁輪装置の構造異常を改善するため、根治を目的とした治療法となります。外科的療法には大きく分けて僧帽弁形成術と弁置換術がありますが、現在は僧帽弁形成術が外科的療法の主体となっています。

 僧帽弁形成術は、切れた腱索の代わりに縫合糸で心筋と弁を縫合する腱索再建術と、広がってしまった弁輪を弁同士が合うように縫い縮める弁輪縫縮術から成る術式で、医学においては、弁置換術に比較すると手術死亡率、左室機能の回復、術後合併症の発現率、長期予後などの点で優れるとされています。費用が高額なことと、心臓を一旦停止させて手術を行うため人工心肺装置が必須であり、術式も複雑であるため限られた診療施設でしか実施できないという欠点がありますが、比較的若齢で発症した場合や、進行が早く内科療法では維持が出来ない場合においては、僧帽弁形成術を実施することで、長期生存やQOLの改善が期待できます。

 当院においても日本大学の菅野信之先生、埼玉の動物循環器・胸部外科センター、葉月会と協力し、僧帽弁形成術を推奨しています。僧帽弁閉鎖不全症で悩まれている方は、一度当院までご相談ください。 

T.H.