南が丘動物通信

血栓症 13年11月11日

 血栓症とは、心腔内や血管内腔に凝血塊が形成されることです。凝血塊は主に左心房や左心室内で形成され、その凝血塊が末梢血管を閉塞することで血栓塞栓症が発生します。
 血栓形成には、「Virchowの3要因」と呼ばれる、①血管壁の性状変化、②血流の変化、③血液成分の変化、といったこれら3つの要素が関連していると考えられています。
①血管壁の性状変化とは即ち血管内皮細胞の損傷を意味しますが、そのような病態を引き起こす疾患としては、敗血症やフィラリア症、悪性腫瘍、再灌流障害、血管炎などがあります。
②血流の変化には、主に心疾患による血流の停滞が挙げられますが、それ以外にも腫瘍による血管の閉塞なども挙げられます。
③血液成分の変化による凝固亢進状態を引き起こすものとしては、アンチトロンビン欠乏を起こす蛋白漏出性腎症や蛋白漏出性腸症、播種性血管内凝固(DIC)などに加え、敗血症、免疫介在性溶血性貧血、急性膵炎、クッシング症候群などが挙げられます。
 血栓塞栓症による症状は、形成された血栓が阻害する血流の程度と塞栓部位によって決定されます。血栓が塞栓する部位として、大動脈腸骨動脈分岐部、肺動脈、門脈、前大静脈、右腕頭動脈、腎動脈、腸間膜動脈などが知られていますが、どの部位にでも塞栓する可能性があります。
特に大動脈腸骨動脈分岐部に起こる大動脈血栓塞栓症は、ネコで心筋症に伴って引き起こされることが多い疾患です。甚急性に片不全麻痺、異常な発声、非常に激しい疼痛等を発症します。
 血栓塞栓症の診断には特異的なものはなく、臨床兆候、身体検査、画像検査、臨床検査を総合的に判断する必要があります。超音波検査によって塞栓した血栓を描出できることもありますが、血栓の大きさや塞栓部位によっては描出が困難な場合も多くあります。CTでは血栓の大きさや位置だけではなく側副血行路の様子も同時に評価できます。臨床検査では、D-dimer、FDPなどの線溶マーカーやアンチトロンビン、トロンボエラストグラフィーなど獣医学領域でも利用できる機会が増えてきています。
 治療には、外科手術による血栓除去術が直接的で有効な治療法となりますが、高い麻酔リスクや摘出後の再灌流障害などの問題から、内科的治療を選択されるケースも多くあります。
医学領域では様々な抗血栓薬が研究され、血栓症のリスクがある患者のほとんどにおいて投与されていますが、それに対して獣医学領域では臨床データが少なく、まだ確立したものがありません。すでに形成されている血栓を溶解する組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)製剤、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼなどの血栓溶解剤や、新たに血栓が形成されないようにする低分子量ヘパリンやワルファリンなどの抗凝固薬、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬、ルンブルクスルベルスなど血栓予防効果が期待されるサプリメントなどが使用されます。
 血栓塞栓症は、引き起こされると治療が困難になるケースが少なくありません。血栓症を引き起こす可能性のある疾患の早期発見とその疾患に対する治療および血栓予防が重要となります。   T.H.