南が丘動物通信

腎性貧血 16年12月11日

慢性腎臓病(CKD)は飼い猫の一般的な障害です。これまでの研究では、老齢猫の15~30%がある程度の腎機能不全または明白な高尿素窒素血症を発症する可能性があるとされています。腎臓は赤血球生成への関与を含め、体内で複数の重要な代謝および内分泌機能を果たしており、腎臓病の悪化によってCKDの猫の30~65%が貧血を発症すると報告されています。

腎性貧血の主な原因は、CKDの進行に伴って骨髄で赤血球産生を調節する腎性ホルモンであるエリスロポエチンの産生が減少することです。また、CKD自体は慢性的な前炎症状態と関連することが知られており、炎症状態により産生される炎症性サイトカインは急性相蛋白であるヘプシジンの誘導によって相対的な鉄欠乏を引き起こしヘモグロビン生成が抑制されてしまいます。CKDの進行によって血液中の尿毒素が増加し、これにより赤血球の生成が低下したり、赤血球の生存期間が短縮したりします。尿毒症は血小板に悪影響を及ぼし、血小板機能の障害が胃腸出血を起こし、さらに貧血が進行する可能性もあります。このように腎性貧血の病態発生には多くの要因があります。

腎性貧血の治療には赤血球造血刺激因子(ESA)製剤を用います。代表的なESAにはエポエチンやダルベポエチンがあります。鉄はヘモグロビン生成および赤血球の機能にとって不可欠で、ESA治療を受けているすべての猫に投与が推奨されています。ESA治療中は定期的な血液検査を実施することで貧血の状態を随時モニターすることがおすすめです。また急性の失血や貧血の重篤な臨床徴候が見られる場合には輸血療法も適応となります。

慢性貧血は多くの経路を介して身体に悪影響を与え、生活の質を全体的に低下させます。したがって腎性貧血を早期に診断し、適切な治療・管理ができるように定期的な健康診断の実施が推奨されます。

H.B.